HOME摂食障害の本などのご紹介>「やせ願望」の精神病理 8「やせ願望」とジェンダー

「やせ願望」の精神病理紹介の最終回
「第六章 「やせ願望」とジェンダー」「第七章「やせ願望」を超えて」の紹介です

○「やせ願望」とジェンダー

なぜ「やせ願望」は主に女性ものなのでしょうか

ひとつには男性よりも女性の方が外見によって評価されるということがあります。
その根本的な理由のひとつとして、
男性は自らが社会の中での地位を持っているのに対して、
女性は男性との関わりを通して初めて社会の中で位置づけられてきたという歴史があります。

「相手に選ばれるか」「相手に喜ばれるか」
という評価基準の中で暮らしてきた「選ばれる性」として女性は
「自己志向」よりも「協調性」を求められてきたのだと思います。
「自己志向」が低く「協調」が高いというのは、まさに摂食障害の典型的なパターンです。

摂食障害の患者さんでは母親がジェンダーの被害者ということもよくあります。
「子育てのために自分の人生を諦めた」女性によって過干渉に育てられ自己志向が低下するケースや、
夫婦仲が悪いけれども仕事を持っていないために離婚ができない母親のもとで、
母親に同情しつつ、母親を軽蔑して育ち、
「母親のように男性に依存した存在になりたくない、自分自身のキャリアを持ちたい」と思う一方で
「母親のように男性に捨てられたくない、愛され続ける女性でいたい」と思い、
「仕事も外見も」という思いが自分の限界を超えてしまう例もあります。

このように「やせ願望」とジェンダーについての関係について考察すると、
女性であるが故に「自己志向」を育てることを良しとされずに、
他人の価値観に振り回されるようになってしまった。
女性であるがゆえに、ライフスタイルを歪められ、身近な人との対人関係も歪められ、自己志向を高められずにストレスを膨らませてしまった。
そんな結果が摂食障害として表れているのではないかと思います。

○「やせ願望」を超えて

自己志向が低いと周囲の価値観に振り回されやすくなり、
周囲が望む「外見」になろうと、画一的な「やせ願望」に流されやすくなるのだと言えます。
自己志向を高めれば「やせ願望」から脱することができるだろうというのは
ひとつの真実だと思います。
でもそれと同時に「外見」が自己志向を育てるという側面もあります。
私たちは日々「外見」を通して人と接しているわけですから、
「外見」のありようが自己志向に影響を与えないわけがありません。

「やせることさえできれば自分に自信がつくと思う」
「自分に自信さえあればこれほどやせたがらないと思う」
というニワトリタマゴの状態に私たちは陥っていますが
実際にやせてみても、それほど自信が高まるわけではありません。

どのようにすれば「外見」を通して自己志向が高められるのか、
が摂食障害を考えるうえで一つのポイントになります。

そもそも人には持って生まれた体質や体型があります。
「性格」と同じように後天的にそれほど大きく変えられるものではありません。
自分の体型を受け入れることが自己志向を高める第一歩です。
「もっとやせられるはず」と思えば思うほど自己志向が低下していきます。

「今の生活とは180度違う人生があるのではないか」
「今の生活に甘んじていてはいけないのではないか」と思うことは
特に自己志向の低い人にとっては、今の自分を受け入れがたいものにしてしまいます。

人間はそれほど変われないものです。
変化は必ず今までの人生の延長線上にあるのです。
一本のつながった線の上を試行錯誤しながら自分を振り返りながら少しずつ進んでいく、
それが自己志向を高める生き方なのではないかと思います。
「やせさえすれば全て解決する」のではなく、
過食嘔吐に苦しみながら、自分の弱点やストレスを知り、
ストレス解決のための改な試みを少しずつ繰り返しながら自己志向を高めていく、
それだけが解決法なのだと思います。

私たちは自己志向を高める生き方をすると同時に、勇気を持って他人と異なる自分を認め、自分と異なる他人を認めなければならないのだと思います。
そうしていくことで、自分の価値観もさらにしっかりしますし、自己志向も高まります。
相手に対してももっと優しい気持ちになることができるでしょう。
多様な価値観が認められる社会が実現すれば「女性はやせているほうが美しい」という単一の価値観からも解放されます。
それぞれの体型があって良いではないか、という当たり前のことが受け入れられるようになるでしょう。 またそのような社会では、多様な生き方が認められますから、ジェンダーの呪縛から病気を引き起こすこともなくなるでしょう。お互いの違いをふまえた上での豊かなコミュニケーションを持つことができれば、ストレスをためこんで病気になることもなくなると思います。
 社会全体が「やせ願望」に冒されてきている今、摂食障害という病は、私たちにさまざまなメッセージを発しています。
私たちは「やせ願望」を乗り越えることができるのか。
「やせ願望」の向かう先は絶望なのか、あるいは多様な価値観を認め合える豊かな社会なのか。それは私たちが摂食障害という病からどれだけのものを学べるかにかかっている、と言えるのではないでしょうか。


「やせ願望」の精神病理―摂食障害からのメッセージ
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 1 紹介
 2 なぜ女性はやせたがるのか
 3 破綻したやせ願望
 4 摂食障害の治し方
 5 対人関係療法
 6 コミュニケーション分析の実際
 7 回復へのプロセス
 8「やせ願望」とジェンダー
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