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鏡の中の少女
鏡の中の少女

フランチェスカという15歳の少女の拒食症を追った小説です。
分析ではなく、ひたすら心を追って描かれている点でとても貴重なものだと思います。

思春期の少女が家族という小さな単位の中で抑圧され続けた感情を吐き出すために
無言の抵抗として、自らの意志で飢えていく。
これだけで全ての拒食症を語りきることはできないのだろうと思いますし、
私が読んだ感じでは結末の回復に向かうあたりなどは特に
問題が単純化されすぎているのではないか、という印象も受けたのですが、
それでも非常によく書かれた小説であり、
いかに周囲から理解しがたくとも、一人の人間が自ら飢える、というその行為には
それなりのもっともな筋があり、理屈にあった行為なのだ、
ということがきちんと描き出されているという点において
学ぶところも多いように思います。
引用しながら流れを追ってみます。

ある日、自分のことを「太っている」と感じたフランチェスカは
自分の中に、痩せて、自由で、強い人格「ケサ」という少女を発見します。
強いケサは誰にも告げないまま気に入った体を獲得すべくダイエットを初めました。

みんな、エネルギーを得るためには、食べることが必要だと考えているけれど、それは違う。
エネルギーは意志の力から生まれてくる。
ケサ、この新しい名前にあわせ、もう殆どスキップしながら思った

あの人たちも、秘密を知っているんだ。
やせているのは、いいこと。
やせているのは強く、やせているのは安心だということを、あのひとたちも知っている。

モデルよりやせたら、そのモデルの写真を捨てていこう。
すぐにあなたたち全員よりやせてみせる、ケサは誓った。
それで、わたしの勝ちよ。
痩せている方が勝ちなのよ。

ケサのダイエットは家族の目に留まります。
父のハロルド、母グレースはどんどんやせ細っていく娘になんとかして食べさせようとし、
家族の中では「良い子だったフランチェスカ」を囲んでいさかいが起こり始めます。

「お母さんが減らすなといってるんだから、フランチェスカ、
やせるのをやめればいいんだ。たべなさい」
こう命じれば、ことはすむとハロルドは思っていた。

ほうっておいてよ!今までわたしがなに食べようと気にしたことなんてなかったじゃない。
わたしがなにをしても、気にしたことなんてなかったくせに。

「おまえが自分でベーコンエッグがいいといったんじゃなかったのか、フランチェスカ。
なのに、口もつけていないじゃないか」
ケサはその声に怒りを感じ、さっきまで皿の上にあった食べ物への恐怖と、父親の怒鳴り声に対するいつもの恐怖心が入りまじるのを感じた。

「入院したいの?こんなことしておもしろがるほど、あなた、おかしくなってしまったの。餓え死にしたがるほど、気が変になってしまったの?」
ケサはうつろな目で母親を見ていた。
ケサはこれまで母親が怒るのを見たことがなかったし、少なくともこんなに怒こっているのを見るのは初めだ。それでも、気にもしていなかった。
ケサは指で桃をトントン叩き、魔法のおまじないをした。
ケ・サ、ケ・サ、ケ・サ。安心感がわいてきた。
安心感と、それから母親の怒りなんかものともしない優越感。

「おまえが何をなやんでいるかいいたくないなら、フランチェスカ、
わしが悩んでいることを話そう。
お前がこんなにやせてしまったことだよ。
また前のように、食べて欲しいんだ。
以前のようなフランチェスカにもどってほしいんだよ」
以前のようなフランチェスカ。
弱虫でおどおどしていて、いつも子供みたいに誰かに頼ってて、自分で自分をコントロールできず、他人に振り回されているフランチェスカ、フランチェスカなんて、大嫌いよ。

かかりつけの医師、精神科医などに掛かりますがフランチェスカは周囲の大人を翻弄し操作しようとするばかりで体重はどんどん落ち続けます。
拒食症に詳しいシャーマンというカウンセラーと出会い治療を受け始めますが
体重を増やすには至らず、フランチェスカは抵抗しながらも強制入院させられます。
病院の食事もとらないフランチェスカは三十キロを下回り、
胸に管を差込み高カロリー輸液を強制的に流し込まれる治療を受けるに至ります。

私は怖くっておぼれかけているんだ。
だけど、誰もわかってくれない。
誰もわかってくれないし、誰もたすけてくれない。

肥らされちゃう。胸に管を刺しこまれちゃう。
マーナが跡をみせてくれたわ。
三度もやったって言ってた。
どんどんカロリーを入れられて、身体はふくらんでふくらんで、
まんまるの大きなバケモノになってしまう。
爆発するまで大きく大きくふくらんでいって、もう素敵な骨っぽい身体じゃなくなってしまう。
ケサはこの世からいなくなってしまう。
なんにもできない、わたしのできることはなにもない。
私の身体は私がコントロールしてきたのに、あの人たちが奪っていってしまった。


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