HOME摂食障害の本などのご紹介>お星さまになりたい (「家族の中の心の病」より)

家族の中の心の病―「よい子」たちの過食と拒食
という本の中に精神科医である著者と拒食症の少女たちとの出会いについて
こんな文章がある

小児科医や内科の医師たちは、親の必死の視線を背に受けながら栄養補給につとめるのが、それに抵抗する女の子たちは、 「お肉をなくして魂だけになりたい」 「この世は汚いから早く消えたい。お星さまになりたい」 などと言うものだから、困ってしまう。 あげくに、手首切りをしたり自殺をほのめかす書き物などが発見されて、 精神科医のお出ましということになったわけである。

この文章が、私は妙に印象に残るのである。
・・・なんとなくピントがずれて感じませんか、これ。
一方で物凄くわかるし、
一方で物凄く、わざとらしい話にも感じられる。

ひとつには
「お肉をなくして魂だけになりたい」
「この世は汚いから早く消えたい。お星さまになりたい」
という言葉は、雲をつかむような、何言ってんのかわけわかんない言い草、の
典型例として出されているものだけど
私は普通に、日常的な感覚のレベルでこの言葉の意味するところがわかる。

いかなるサイズになったって、決して満足のいかない、
痩せて太っても常に批判されてなくちゃいけない身体なんか、
もし消せるものならなくした方が楽に決まってるじゃないか、
ということはこの私にしても凄く普通に思うし

身体というのが嫌悪されたり好き勝手に太らされたり
サイズによって分別されたりする対象にすぎないのであれば、
その身体によって縛り付けられている「この世」はおぞましく
そんなところは遠慮願って別世界にでも逃避してたいよね、
という意味においてこの言葉は
主旨としてはすごくまっとうなことを言っているような気がするんだな。

ところがついでにもうひとつ言うと
全体として言いたいことの意味はよくわかるものの
この「お星さまになりたい」というニュアンスは
何か妙に誇張された「荒唐無稽さ」を感じもする

浮世離れした、お花畑の住民で、穢れない、頭も身体もちょっと弱い少女、
という「おとぎ話の少女像」から抽出してきたような台詞にも見えて
全体のイメージそのものは、私には釈然としないところがあり
この「お星さま」発言は意図的な創作とは言わないまでも
何が別の文脈にたいする”間違った翻訳”なのではないか
というような気が、なんとなくしてしまうのだ

(と、いうのもこの直後に続く文章では、過食の様子を
童話「赤頭巾ちゃん」に登場する狼の様子に喩えたり、
過食の様子を家族に見られたときの摂食障害者の様子を
”ろくろっ首が「見たな~」という感じでにらむのに似てる”
などと表現したり、
全体としても摂食障害という行為について
結構言い放題のイメージで語られているわけである。
いわゆる「問題行動」を、すかさず
名づけたり、分類したり、喩えたり、決め付けたりするのが
この著者に見られる顕著な特徴でもあるように見受けられのだけど
正直言ってコレクションされてるみたいであんまり愉快な気はしないよね、
というふうに、当事者として感じるのは確かだな。)

拒食症と「お星さまになりたい」という表現方法は、
わたしにとっては非常にそぐわないものに聞こえる。
「綺麗」と「汚い」に世界を分ける傾向というのは
たしかに多々見られるようには思うけれど
それは「お星さまになりたい」といったような
いわば「素敵なファンタジーの世界を目指す」ということではなく
この「汚い肉」に不本意にも縛り付けられているのに、
生きている限りは脱出することさえままならないというジレンマに直面して
ぎりぎりのところで生きる場所を探して行き悩んでいるという点で
「お星さまどころの騒ぎじゃない」苦悩を持っている、
という風に私は思っている。

そういう印象を持って読むとどうもこの文章は、
彼女たちが持っている苦しみが理解されないまま
子供じみたファンタジー愛好にすり替えられてしまった文章なんじゃないか
というふうにも感じられてくるのだ。

という、
これは私が私がちらっと疑問に思ったこと、のお話。
私は自分で病識をもつほどに
はっきりと生存上危機的な拒食期というものがなかったし
色々なタイプの摂食障害があるのだろうから
私にはわからないことの方がはるかに多いのは知ってるんだけども
それを踏まえても、なんだか釈然としない気持ちが
残ってしまったんだな

(それで、くだらない言い訳ですけども、この記事は
臨床家の書いたものに対して素人が
「嘘でしょ」って言ってるわけではなくて
これは一般にかなり読まれている本であるってことを考えて
「こういうのが拒食症の一般的なイメージだって思われてるんだったら
ずいぶん違ってる気がするの」
ということを、経験者の立場から言いたいだけの話です。
なんでこんな長い言い訳をしてるかっていうと、
広く読まれている本だけにこういうことを書くと
当然批難が予測されるので、あらかじめビビっってしまったの^^;)

ちなみに件の本そのものは、どうにも他人事に思えて
読み通すことができなかったので、
また時間をおいて再挑戦してみたいと思ってあきらめることにした。

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コメント

 多分、どれだけの患者を診ていたとしても、其処に先入観が
有ったり、医師の知識や志と患者の訴えが違う場合において
やっぱり私達の思いは「宇宙言」にしか聞こえないのかもしれない。
 でも其れは受け取る側と発信する側に齟齬が有るだけで
ふざけてる訳でも無い。受け取る側が茶化している訳でも
無いのは判るのだけれども、誤解されたままテクストとして
綴られ、他の人に読まれると云うのは誤解を更に広めるので
難しいな、って思う。

 私も色々読んでいて、何か違うなって思うものに結構
出逢った気がします。何を見ていたんだろう?とか
これを本気で書いているのだろうか?とか。
 何だかもういっその事、このブログに集まる人達で各々の
摂食障害に対する考え方とか、苦しみとかを本にした方が
よっぽど良いのではないかなんて思える時も有ったりします(笑
 第三者が代弁して書く本は有るけれども、摂食障害に
苦しむ人が自ら発信する書籍って有ったらいいと思う。
 そんな事を一寸夢見たりします。

過食と拒食の症状に長くお付き合いしている自分でも、
いまだに寝る前とか、このままずっと目が覚めなければいいとか
体なんてどうでもいいから魂だけになってしまいたいとか、体を極限まで空っぽな状態にしてしまいたいとか考えることが多々あります。
お星様になりたいなんて、そんなメルヘンチックじゃなく、
なんていうか、魂の訴えとか叫びを痩せることに執着する気持ちに置き換わっているのに近いのかな。
 回復者の話がストレートに伝わってくる本って無いのかなぁ。

はなさん

摂食障害の研究され初めの頃、精神分析では過食行動のことを
「父の子を妊娠したい願望」というふうに解説していたらしいよ。
(この分析はロバート・リンドナーというサイコセラピストが著したもの)
当事者としては笑う話なのか、怒る話なのか、一瞬分からなくなるけど、
これでも大昔ではなくて、1955年の話。

この分析における患者と治療者の距離から考えると
半世紀でずいぶん理解は進んだのかな、とは思うけど、
それでも「?」という場面は結構ありますよね。

インターネットの普及のおかげでこういうふうに
「治療者の解釈」を経ないでナマのままの当事者の声が聞かれやすくなっている
というのは、非常に有意義だと思います。

ここも小さなサイトだけども、少なくても「ナマ」である
という点において某か貴重なものだと信じておるところです^^。

emaさん

回復者の直接の声を、一番繊細に拾っているのはフェミニストたちが書いた本であるように感じます。
「女なんていや!」とか「女はなぜやせようとするのか」とかのあたり。
どちらも古くてもう殆ど手に入らないけどね・・・^^;

(フェミニズム論は、ものによっては「被害者語り」になりすぎる傾向も出てきてしまって全体としては非常にデリケートで難しい気はするんだけど)

「なぜ摂食障害なんてものになれねばならなかったのか」というところが
フェミニズムの関心であるわけだから、他の解説書群に比べてまた別の面白さです。

あと、一般的にいって、やっぱり女性の書いたものの方が面白いね。
どうしても、男性では
「洋服がワンサイズ大きくなるだけで流行の店に足を踏み入れてはいけないと感じる疎外感」とか、
そういう日常的な無言のプレッシャーはやっぱり、基本的にはわからないわけだから。
やっぱりそういった共感は女性の方がスムーズだと思う。

このサイトでも体験談を集めるといいのかなあ、
みたいなことはたまに思うのだけど・・・。

>「洋服がワンサイズ大きくなるだけで流行の店に足を踏み入れてはいけないと感じる疎外感」
男性医師にいくら訴えてもわかってもらえなかったことが、
ここではスルッと分かっていただけてうれしいです。
そうなんです。
サイズに縛られてるといわれればそれまででしょうが、
そうしてきたのは、決して女性のみではない。
男性の意見もあると思います。

生きることが楽しいと思っても、やはり服装のサイズが気になるときありますね。気にしたくなくても、気になります。
雑誌の表紙は常に「細く細く」と言って来ます者ね。

yuiさん
「そんなことに疎外感を感じるほうがおかしい」
といえばそれで話としては一応終わりますからね。
日常的な感覚の面で「それは終わらないんだ」ということを言い表すのは
非常に難しいですし、
そういうことがいえるんであれば摂食障害にならずにすむのかもしれません。

でも男性医師に訴えることができる、なんてyuiさん凄いですね。
私はなんかコワクテ言えないような気がします。未だに。
このサイトだから言える、ってとこある(笑)

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